奈良地方裁判所 昭和43年(わ)42号 判決 1968年9月04日
主たる事務所の所在地
奈良県北葛城郡広陵町大字平尾七〇二番地
馬見農業協同組合
右代表者
組合長理事 野村佐市
本籍
奈良県北葛城郡広陵町大字疋相一八二番地
住居
右に同じ
馬見農業協同組合の組合長・理事
野村佐市
明治三一年九月一〇日生
本籍
奈良県北葛城郡広陵町大字三吉一一二番地
住居
右に同じ
馬見農業協同組合の参事
吉岡国郎
大正八年九月二四日生
右の者らに対する法人税法違反、並びに吉岡に対する贈賄被告事件について、当裁判所は検察官難藤務出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告法人馬見農業協同組合を罰金五〇〇万円に処する。
被告人野村佐市を罰金一〇〇万円に処する。
被告人吉岡国郎を懲役七月に処する。
被告人野村が右罰金を完納しないときは、同被告人を一日五、〇〇〇円の割合による期間労役場に留置する。但し被告人吉岡に対しては、この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第一、奈良県北葛城郡広陵町大字平尾七〇二番地に主たる事務所を有する法人たる馬見農業協同組合の参事の被告人吉岡国郎は、同組合の組合長理事の被告人野村佐市と、同組合の貸金の貸し倒れの穴埋め、その他の用途に当てるため、いわゆる含み利益(税務署その他に知らせない隠し財産)を保有しようと共謀し、よつて、被告人吉岡は、このために同農業協同組合の貸付金利息の一部を留保して、同組合の役員等の名義の貯金として、いわゆる裏帳簿に記載し、これに見合う支出として架空の仕入れ費を計上して、経理の外形を整えるという手段を施したうえ
(一) 昭和三九年四月一日から昭和四年三月三一日までの事業年度の同組合の所得額は真実は三二、六八五、三六七円(その税額は八、八八七、五〇〇円)であつたのに、昭和四〇年五月二五日所轄の葛城税務署長に対し、その所得額は七、一三八、六一五円、その税額は一、七三四、五七〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により同事業年度の法人税七、一五二、九三〇円を、逋脱し
(二) 昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度の同組合の所得額は真実は、四二、二六七、八八三円(その税額は一〇、七一六、三〇〇円)であつたのに、昭和四一年五月三一日所轄葛城税務署長に対しその所得額は一二、六三七、二五一円、その税額は三、〇一二、五九〇円である旨虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により同事業年度の法人税七、七〇三、七一〇円を逋脱し、
(三) 昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の同組合の所得額は、真実は、五二、六〇九、二〇二円(その税額は一一、八九七、三一〇円)であつたのに、昭和四二年五月三〇日所轄葛城税務署長に対しその所得額は一七、二六〇、一七八円、その税額は三、七六七、二一〇円である旨虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により同事業年度の法人税八、一三〇、一〇〇円を逋脱した。
第二、被告人吉岡国郎は、馬見農業協同組合の参事として、同組合の法人税に関する税務相談、所轄葛城税務署長に対する申告につき、いずれも同税務署の直税課法人源泉係の大蔵事務官谷口迅央及び西岡俊徳から好意を示されたことの謝礼並びに引き続きそのような好意を受けたい趣旨で
(一) 昭和四〇年一二月末か昭和四一年一月頃北葛城郡広陵町大字平尾七〇二番地の馬見農業協同組合事務所で前示谷口、西岡の両名に、その両名分として現金一〇万円を供与し、
(二) 昭和四一年五月頃前示組合の事務所で谷口、西岡の両名に、その両名分として現金一〇万円を供与し、
(三) 昭和四一年八月頃前示組合の事務所で谷口(当時は奈良税務署法人税課に配置換えになつていた。)西岡(当時は大阪市内の港税務署法人税課に配置換えになつていた)に、その両名分として現金一〇万円を供与し
以ていずれも公務員たる谷口迅央、西岡俊徳の職務に関し、同人等に賄賂を供与した。
(証拠の標目)
判示事実全般につき
一、被告法人代表者及び各被告人の当公判における各供述
判示第一の事実につき
一、被告人吉岡国郎の検察官に対する昭和四三・三・一五付、昭和四三・四・二付各供述調書
一、被告人吉岡国郎の収税官吏大蔵事務官に対する昭和四三・五・二付(検甲第二六号証)質問てん末書
一、被告人野村佐市の検察官に対する昭和四三・三・二九付供述調書
一、竹村初男の検察官に対する供述調書
一、竹村初男、平井信次の収税官吏大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、それぞれ、別口定期貯金明細書(検甲第七号証)、別口普通貯金元帳(検甲第九号証)、別口定期貯金記入帳(利息源泉懲収税付記)(検甲第一〇号証)、別口勘定元帳(検甲第一一号証)と題する帳簿類を調査した結果を記載した書類
一、脱税計算書三通(検甲第一五、第一六、第一七号証)
一、馬見農業協同組合の法人税申告書の写についての葛城税務署長の証明書三通(検甲第一二、第一三、第一四号証)
一、押収してある貸付金利息伝票、仕入高兼買掛金元帳、普通貯金元帳、金銭出納帳、定期預金計算書、定期貯金元帳
判示第二の事実につき
一、被告人吉岡国郎の検察官に対する昭和四三・三・七付、昭和四三・三・一二付、昭和四三・三・二二付各供述調書
一、相被告人谷口迅央の検察官に対する昭和四三・三・一付、昭和四三・三・二二付(検甲第四六、第四七号証)各供述調書
一、相被告人西岡俊徳の検察官に対する昭和四三・三・一一付、昭和四三・三・一四付(検甲第五二、第五三号証)、昭和四三・三・二二付、昭和四三・三・一付、昭和四三・三・二二付(検甲第五六、第五七、第五八号証)各供述調書
(法令の適用)
一、被告法人に対し、昭和四〇年三月三一日法律第三四号法人税法附則第一九条、同法律による改正前の法人税法第五一条(第四八条第一項)、昭和四〇年三月法律第三四号法人税法第一六四条第一項(第一五九条第一項)。刑法第四五条前段、第四八条第二項。
一、被告人野村佐市、同吉岡国郎に対し
被告人両名の判示第一(一)の所為は、刑法第六〇条、昭和四〇年三月法律第三四号法人税法附則第一九条、同法律による改正前の法人税法第四八条第一項(第一八条第一項)に、判示第一(二)(三)の各所為は刑法第六〇条、前示昭和四〇年法律第三四号法人税第一五九条第一項(第七四条第一項第二号)に、被告人吉岡の判示第二の各所為は刑法第一九八条第一項罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、該当するところ、以上の罪は刑法第四五条前段の併合罪であるから、被告人野村については各所定刑中罰金刑を選択し、被告人吉岡については、各所定刑中懲役刑を選択し、被告人野村に対しては刑法第四八条第二項により、判示第一の各罪に付、その所定罰金の合算額の範囲で同被告人を罰金一〇〇万円に処し、被告人吉岡に対しては、刑法第四七条第一〇条により、判示第一、第二の各罪に付、最も重い第二の(一)の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役七月に処する。なお被告人野村に対しては、刑法第一八条第一、第四項により右罰金不完納の場合につき労役場留置を言渡し、被告人吉岡に対しては刑法第二五条第一項により主文のとおり右刑の執行を猶予する。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 塩田宇三郎)